『SDM』 VOL.21
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ストリートダンス史概論Ⅰ〜アメリカ史〜講師・イラスト=江守藹lecture&illustration by Ai Emori構成=長濱佳孝constructed by Yoshitaka NagahamaPROFILE:1974年に日本最初のプロダンスチーム「NESY GANG」を結成した、日本のストリートダンス創成期のダンサーのひとり。現在では、イラストレーターとしてソウルフルな画風で高い評価を得ている他、音楽&店舗プロデューサー、DJ、作家、社団法人日本ストリートダンス教育研究所代表理事など、マルチな活動を行なっている。著書:「アメリカ南部を聴く/ソウルフルトリップ」「黒く踊れ!/ストリートダンサーズ列伝」SOUL TRAINソウルダンスからさまざまなダンスが形成されていく70年代。それに大きく貢献したのがアメリカのテレビ番組「SOUL TRAIN」です。そこで今回は、みなさんが知ってるようで実は知らない「SOUL TRAIN」を軸にして70年代を探ってみましょう。「ストリートダンスを踊るなら、その歴史をきちんと学ぶべきだ」、そう耳にすることは多いでしょう。しかし、どんな情報もネットで手軽に手に入る現代でさえ、正しい歴史を知ることは容易ではありません! そこで「SDM」では、真の歴史を伝えるため、全6回の誌上講義を敢行! 2回目となる今回は、あの伝説のテレビ番組にせまります!黒人の、黒人のためによる音楽番組 時は1970年、「SOUL TRAIN」はシカゴのテレビ局のローカル番組として産声を上げました。この番組の仕掛け人が、自らも番組のMCとしても活躍する黒人プロデューサー、ドン・コーネリアスです。 彼はまだ黒人差別が根強く残る時代背景の中、制作スタッフも出演者も全て黒人という、徹底した黒人による、黒人のための音楽番組として番組を立ち上げました。そして、〝黒人だけ〞という点以外にも「SOUL TRAIN」が普通の音楽番組と大きく違った点があります。それがダンスを大きく映すということでした。 具体的には、アーティストが歌うときやレコードで曲を紹介するときに、スタジオにいる黒人たちを自由に踊らせる。番組のエンディングで、左右両サイドに分かれた真ん中を、順番に踊りながら登場する様子(ソウルトレイン・ライン)を大きくカメラに映し出すのです。 ダンスで出演する黒人たちは、いわゆる〝公開収録に参加した、全くの一般人〞。収録に参加するのにはオーディションがありましたが、「自分のダンスがテレビで放映される!」という黒人たちの自己顕示欲をくすぐり、オーディションには毎回、長蛇の列ができました。 そして、放送回数を重ねるうちに制作陣や視聴者の目にとまるダンサーが出てきます。すると、「キミはもうオーディションを受けないでいいから、毎回来なさい」とスタッフから声をかけられるようになり、番組の重要なキャスト、ソウルトレイン・ギャングとなるのです。ソウルダンスから生まれるダンスたち それでは「SOUL TRAIN」では、どんなダンスが踊られていたのでしょうか?番組の収録に参加(出演)することが、目立ちたがり屋の黒人たちのステータスとなっていた。(1970年代)講師 江守 藹番組名の由来、「SOUL」はわかるけど何で列車(TRAIN)?番組開始当初、「SOUL TRAIN」が放映されていたのはロサンゼルスやニューヨーク、サンフランシスコなど、黒人たちの比率が高い〝ブラックシティ〟と呼ばれる都市でした。番組プロデューサーであるドン・コーネリアスは、番組をこのブラックシティを結ぶ列車のような存在にしたい、という想いから「SOUL TRAIN(ソウルで結ぶ列車)」と名付けたのです。彼の〝黒人〟としての意識が強く表われた番組タイトルとも言えますね。コラム海岸のロックダンサーたちが新たなムーブを表現するようになります。それこそがポッピンであり、ブーガルー・サムによりエレクトリック・ブーガルーズが結成されました。 このように1970年代はソウルダンスをベースに、さまざまなダンスが派生していきます。 放送開始から瞬く間にブームを巻き起こした「SOUL TRAIN」は、1971年には放送局をロサンゼルスに移し、1975年には全米ネットの番組へ拡大していきます。 そうすると、まさに全米から番組への出演権をかけて、名だたるダンサーが集結してきます。当時はスキルというよりも、いかに目立つか、オリジナリティで勝負する時代。オーディションではソウルダンスをベースとしたさまざまな個性あふれるダンスが競われるようになります。 中でもドン・キャンベルが頭角を表し、彼のダンス、ロッキンが一気に全米に知れ渡るようになります。彼はこの番組がきっかけで、日本でも有名なThe Lockersを後に結成します。 そうして、1970年代も中期となると、ディスコブームが到来します。社会全体も豊かになっていき、黒人たちの地位も認められるようになり、彼らのファッションも上品なものに洗練されていきます。そんなスタイルから生まれたのが、ポーズを見せる要素の強いパンキング。このダンスも番組内で多く見られるようになります。 また、ディスコブームの影響により、ダンスを意識した軽快なビートの音楽、ファンク・ミュージックが盛りあがってきます。この音楽に合わせるように(番組とは離れますが)西

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