『SDM』 VOL.23
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開催する責任と、中止する責任と。│その想いが、市長を動かして本番ができるようになったんですね! 完全にではなく、会場を使える日は減り、さらに使用時間も短縮。この条件でリハーサルを含めた本番の日程が組めるなら〝できないこともない〞というものでした。それから改めて、やるべきかどうかということを考えました。実際、振付師やスタッフの中でも大きな動揺があったし、私も400人近くの出演者全員の命を背負うこと。また、19年続くΣの公演を途絶えさせてしまうことへの責任や、公演に出たいと思っている出演者の気持ちなど、いろんな現実に押しつぶされそうになりました。 でも、公演が開催できる可能性がある限り、私たちは公演を開催する責任があると思ったし、この震災を体験したから私たちだからこそ、伝えられることがあると思ったんです。│その〝伝えられること〞とは具体的にどういうことでしょうか?い状況で帰れない人も多くて。どうしようと思ってたら、職員の方のご厚意で施設を開放していただいたんです。近所の方も、寒いでしょ?って上着を貸してくれたりして、いろんな方の温かさに触れることができました。│その後の日程の練習はどうなりました? 翌日以降も毎日全体練習が予定されていて、時期的に小屋入りまでの最後の詰めの時期でした。地震の影響で予約していた施設が使えなくなり、急遽、他の練習施設を探して予約して……。結局、施設はとれても電車の運休で出演者が集まれないことがわかり、すべて練習は中止にして、出演者には自宅待機の連絡を回しました。│最後の練習が出来ない状態で、そのまま本番の会場入りだったのですか? その何日か前に会場の戸田市文化会館から、一度、館長と公演の実施について話してほしいという連絡がありました。館長からは、「公演はやらない方がいい。おそらく8、9割の確率で開催はできな開催か中止か。延期ができない理由。│地震の起きた時はどういう状況でした? 都内のスポーツ施設で全体練習をしていました。もちろん練習はすぐ中止して、安全な場所に避難をして……。その後、施設も一時閉鎖になってしまったので、外の広場でサークル(班)ごとに解散しようとしたんですけど、電車も動いてない」と言われました。というのも、この状況下での会場の使用の可否には市の判断が必要で、その判断も使用日の前日になって下されるという不安定な状況だったんです。延期を勧められましたが、私たちは学生で、制作や振付者も卒業してしまう人が多いのでそれはできません。 館長は翌日に市長と話す機会があるとのことだったので、私は公演のテーマが他人との助け合いを訴えていること、Σの活動説明の企画書、計画停電時のスケジュール、そして出演者のみんながmixiで「地震に負けないでがんばる!」という想いをつづった書き込みをプリントして、何とか会場を使わせてもらえるように、館長に想いを託しました。 〝他人なんていない〞ということです。例えば日常生活において「道ばたで他人の落とし物を拾ってあげることができますか?」ということを訴えかけるような公演を、元々はしたかったんです。でも、この地震をきっかけに〝他人同士の助け合い〞が日本中で考えさせられる時期だったので、このタイミングだからこそ、よりいっそう、お客さんにも伝わるメッセージになるのではないかと思ったんです。 │では、本番を終えて今はどういう気持ちですか? まったく悔いはないと言ったら嘘になるんですけど、この時期にこういうメッセージのある公演をやりきれたことは、大きな意味があったかなと思います。個人的には、もう抜け殻ですね(笑)。私は高校生の頃からΣの公演に憧れていたので、思い入れはかなり強い方ですが、それ以上に、この状況で1回でも公演ができたことが奇跡というか、多くの方に感謝しています。この公演を観て、お客さんたちに少しでも私たちが伝えたいことを感じてもらえたら、うれしいですね。開演前、会長として古源さんは来場者の前に立ち、公演開催に至る経緯と避難誘導の説明を行なった。古源由斐PROFILE:2010年度Σ会長。高校在学時よりΣのダンス公演に魅了され、サークルは早稲田大学ダンスサークル〝W.U.B〟に所属。Σの公演には1年時より出演し、今回の『NOTHERS』では、会長兼制作総指揮として公演のすべてをとりまとめた。SPECIAL INTERVIEW大震災、その時ダンサーたちは。In the case of関東大学学生ダンス連盟Σ取材・文=長濱佳孝 text by Yoshitaka Nagahama震災後の過酷な条件の中、開催されたΣの20周年公演。なぜこの時期に開催を決行したのか?そこに至る制作側の想いとは? さまざまな困難や葛藤を乗りこえ、ダンスの持つ力を改めて認識されてくれた学生ダンサーたち。Σの会長であり、公演の制作総指揮にあたった古源由斐さんに、その想いを聞いた。関東大学学生ダンス連盟Σとは!?関東地方の36大学、46ダンスサークルの所属人数約4000人から成る、今年で団体創立24年を迎えた学生団体。年間ではダンスイベントやコンテスト、公演などの企画をすべて学生のみで行なっている。毎年3月に開催している舞台公演は春休みの約2ヶ月を費やし、参加人数は400人弱にも上り、日本で随一の大規模ダンス公演として知られている。

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