『SDM』 VOL.24
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本音を言うなら5分ではなく90分の作品を観たい!―日本のストリートダンスの舞台公演シーンにはどういった印象がありますか? これはストリートだけでなく、ダンス業界全般に言えることなんですけど、5分の作品ができる振付師は大勢いるんですが、「90分でしっかり魅せられる」人は本当に少ないんです。ほとんどの〝ダンス公演〞と銘打たれたものが、本当は5分しかネタがないダンスを無理やり90分に薄めてみせている。けど、それって結局、興行として成り立っていないんですよね。―5分ではなく〝90分〞というのは、何か理由があるのですか? 〝90分のエンターテインメントとして成立する作品〞を創れる人は、私たちプロデュースする側の立場からすると、何千万何億円の単位で出資をして〝興行として広げる〞ことができるんです。そして、それを実現させるのが振付師の力。例えば、世界的に公演を展開しているマシュー・ボーンの「白鳥の湖」(※1)。別に脅威的にスキルがあるダンサーのみが集結しているわけではありませんが、あの作品はしっかり2時間ダンスだけでお客さんを楽しませることができます。だから、ショービジネスとしてやっていけるんです。 正直、『Legend Tokyo』の作品時間が5分というのは短い。多くの作品を観てもらうためには、最初は仕方ないかもしれませんが……。この中から勝ち残った4チームで、今度は30分の作品でやってみるのもいいかと思いますよ。―確かに。今後の大会の形の参考にさせて頂きます! 正直、〝技がたくさんあるだけ〞の5分の作品は商品価値がありません。だから、私が見極めたいのは、「5分のものしか作れないのか」、それとも「90分作れる余力があっての5分なのか」という点ですね。私として、やはり一番は興行として出資できるような振付師に出会えること。だから、そういう人を探したいと思っています。お客様がお金を払って観たいかどうかという〝判断〞は受けるべき。―現在のストリートダンスの興行については、どうお考えですか? やはり、観に行く価値が「知り合いが出ていて良かった」だと、いつまでたってもショービジネスとしては成立しないと思います。公演・イベントと銘打ちながら「また結局、発表会!?」としか思えないものが日本は多い。やっぱり、ダンスを観る人を真剣に増やしたいと思っているのだったら、お客様に「面白かった!」と思って帰ってもらわなければ、「また、次も行こう」にはつながりません。そこが大事だと思うんです。 厳しいことを言うと、例えばレッスンで教えている100人の生徒がいて成立している生活から、その上にいきたいのなら、生徒の100人を無視してでも、何千何万人のお客さんがつくようなものを創らないといけない。でも今って、そんなダンス公演・イベントって、ほとんどないじゃないですか? それはやはり、創り手が目の前のことしか見てないんじゃないかと思うんですよ。自分が踊ることと、教えること、日々の生活で必死になっていて、自分の中の引き出しがどうしても少なくなってしまっていると思います。――最後に、村田さんならではの〝審査基準〞を教えて下さい。 「ダンスは芸術だから、私は評価されるために作品を創りたくない」と考えている人もいると思います。けど、ダンス界で生活して1円でも報酬をもらっているのなら、〝評価〞ではなく、お客様がお金を払って観たいかどうかという〝判断〞は、当然、受けるべきだとは思います。それが嫌だという人は、仕事としてのダンスは向いていないですね。ダンススキルは二の次。「自分の教えている生徒だけでなく、第三者であるお客様がお金を出してでもみたい作品かどうか!?」。それが私の審査基準ですね!※1:マシュー・ボーン イギリスの振付師。バレエの古典「白鳥の湖」を、白鳥をすべて男性ダンサーを使い、現代的な解釈と映画的な手法で表現。既存のバレエの概念を完全に変えた世界的ヒット公演となる。バレエ、コンテンポラリーの世界では、舞台公演がショービジネスとして成立し、〝ダンサー以外の一般観劇者〟で何千何万人を動員しているステージもある。その中でも、日本を代表するダンス公演を、数多く輩出してきた俊腕プロデューサー、それが村田裕子氏だ。彼女の視点に映っているストリートダンス界とは!?Profile1990年代より株式会社梅田芸術劇場の公演プロデューサーとして活躍。プロデュース公演からは、今回号表紙を飾ったTAKAHIROをはじめ、服部有吉、上島雪夫、金森穣など業界第一線で活躍している振付師を数多く発掘している。また、単なるダンス公演だけではなく、他ジャンルのダンスをクロスオーバーさせた企画公演も数多く成功させている。#06取材・文=工藤光昭 text by Mitsuaki Kudo写真=長濱佳孝photo by Yoshitaka Nagahamaダンス公演事業としての視点。阪急阪神東宝グループ 株式会社梅田芸術劇場東京事業部長・チーフプロデューサー村田 裕子Information彼女のプロデュース公演は、バレエ、コンテンポラリーだけではない。最近では、TAKAHIROによる舞台公演『Electric City』をはじめ、ストリートダンサーによる舞台公演にも精力的に着手している。公演のようすは本誌P17をチェック!今回号の表紙を飾ったTAKAHIRO の舞台公演も彼女がプロデュース!Job Fileラスタ・トーマス、辻本知彦などの海外で活躍する著名ダンサーを迎え、オーケストラとダンスを融合させた舞台公演。D’OAM、XYONといったストリートダンサーも参加していた。北村薫による同名小説を、上島雪夫、服部有吉を振付師にむかえてダンス公演化! 西島千博、遠藤康行、森山開次などバレエ、コンテンポラリー界の超豪華メンツが国内外から集結した!芥川龍之介による有名小説をベースに服部有吉が演出・振付。出演するダンサーはハンブルグ・バレエ団。1人の人物を、3人が踊ることで、人の心理を何層にも複雑化して魅せた。「ラプソディ・イン・ブルー」 2007年「盤上の敵」 2004年「藪の中」 2005年90分の作品でも魅せられる振付師は、興行として出資の対象になる!30

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