『SDM』 VOL.30
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―まずは、北谷さんの経歴から教えてください。 プロモーターという仕事を簡単に説明させて頂くと〝エンタテインメントの興行を事業化する人〞。イベントに必要なお金、場所、人、時間……これらをすべて統括管理する人間のことですね。しかし、その内容は、企画から始まって制作費の調達、プロモーション、チケット販売、テレビ放送権交渉など多岐にわたります。 私はおよそ30年前、アメリカの大学でメディアコミュニケーション学を教えながら、この業界に飛び込みました。これまでに手がけた代表的な仕事にはローリング・ストーンズ、マイケル・ジャクソン、マドンナ、U2といった世界的大物アーティストのコンサート。NFLやNBAなどアメリカメジャースポーツの日本招聘試合などがあります。 また、日本テレビやTBSの顧問、東京ドームやソニーの役員として米国法人の経営を担い、現在では、大学院で教鞭をとりつつAvex International Holdings Ltd.の代表取締役社長とエイベックス・ライヴ・クリエイティヴ株式会社の取締役として、海外戦略を構築中です。―そうそうたる経歴ですね!これまで世界のライヴ・エンタテインメントを数多く招聘されてきたようですが、日本のコンテンツを海外発信していく点についてはどうお考えですか? テレビの放映権や日本のアニメ映画の海外配給などは数多く交渉してきましたが、基本的にライヴ・コンテンツとなると海外で勝負できるものはほとんどないと思っています。日本人アーティストを売りだそうとしたこともありましたが、やはり言葉の壁が大きくて、俳優や歌手の場合、英語が滑らかに発音できなかったら、せっかくいい演技や音楽もなかなか伝わりにくい。そういった意味では、ダンスは海外にも通じる非常に大きな可能性があると思いますよ。―確かにダンスなら、言葉は通じなくてもすごさや面白さは通じますよね! ダンスでも特に〝ストリートダンス〞と呼ばれるものは、もはやライヴ・エンタテインメントの舞台の上で、メインストリームのフォーマットになってきたと感じています。今では、どのライヴやコンサートを見ても、必ずストリートダンスの要素が入っているのはないかと思います。だから〝ダンス抜き〞というエンタテインメントはほとんどありえない。 実際に KENTO MORIさんやTAKAHIROさんなど日本人でも海外のトップ・アーティストのバックダンサーとして活躍されている方もいますよね。ダンスには言葉も人種も関係ない。それに、俳優や歌手よりも、技術そのものをしっかりと受け止めてくれる土壌があるんだと思います。―しかし、まだまだ日本のストリートダンスは業界としてビジネス市場が確立していないように感じますが、それについてはどう思われますか? 商業性に欠けるからですよ。音楽だったらアルバムが売れて印税が入る、テレビの出演料もある。でも日本におけるダンスは、まだ〝趣味の延長〞という認識が多い。 ただ、今年から中学教育にダンスが取り入れられたことは大きなポイントで、義務教育に含まれたら学校で必ず体育の時間にやらなきゃいけない。今まで食わず嫌いの人が山ほどいたけど、ダンスに目覚める人口が爆発的に増えるんですよ。 商業化というのはまさにそれで、例えばスポーツ。NFLがアメフトをビジネスとして、ある国に進出して確立化しようとした時に何をするか? それにはまず、ルールや設備を簡素化した、アメフトの簡易版とでも言うべきフラッグ・フットボールをグラスルーツレベルで拡げるんです。それから巨額を投じてテレビの時間を購入して試合中継を露出し、さらに正規の体育と政府に認めさせるようにするんです。 子供も大人も見た時にすぐルールが分かれば楽しめる。ファンや競技人口も増えるから、市場も大きくなり、ビジネスとして成り立つんです。―なるほど……。今ではメジャーなスポーツも、自然と広がったわけではないんですね。ダンスもビジネスとして成立するためには、ちゃんと考えるべきなんですね! スポーツだって世界的にポピュラーなものになると、大会にスポンサーもつくし、テレビの放映権料だって上がります。日本のダンスも戦略的にビジネスとしての成長を構築すれば、主要エンタメ産業になり得ると思いますよ。北谷賢司氏の主な経歴〝伝説のプロモーター〟と呼ばれた北谷賢司氏へ特別インタビュー!〝伝説のプロモーター〟と呼ばれた北谷賢司氏へ特別インタビュー!〝伝説のプロモーター〟と呼ばれた北谷賢司氏へ特別インタビュー!ダンス義務教育化がもたらす日本のダンスの未来。米国にてワシントン州立大学コミュニケーション学部放送学科卒業し、ウィスコンシン大学大学院にてテレコミュニケーション法、経営学を履修。修士号、博士号を取得。インディアナ大学にて助教授を務める。東京ドーム取締役としてローリング・ストーンズ、マイケル・ジャクソンやマドンナなどのトップアーティストや、MBL、NBA、NFLなどのスポーツ興行の招聘を成功させる以後、コンテンツ産業における日本と世界の橋渡し役としてSONY、LAWSONなどで役員、顧問を務め、現在はAvex International Holdings Ltd. 代表取締役社長、エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ株式会社 取締役に就任している。日本テレビ放送網顧問海外番組販売や米国現地法人開設に携わり、『鉄腕アトム』英語版の脚本を制作。TBS顧問世界フィギュアスケートやバレーボール等、TBS側の窓口として世界連盟と交渉。独占放映権を日本国内で販売する際の全ての調整役を担う。東京ドーム取締役兼米国法人社長数々の世界的なトップアーティストのコンサートや、NBLやNFLなどのスポーツ興行の招聘、交渉を担当。ソニー執行役員兼米国本社エグゼクティブ・バイス・プレジデント/北米グループ企業マーケティング統括責任者当時のソニーの社長からヘッドハントされ、対海外部門の交渉役として活躍。以後、ソニー北米音楽、音楽家電事業全体のマーケティング責任者となる。株式会社オークローン・マーケティング最高顧問エクササイズDVD「ビリーズ・ブートキャンプ」のプロモーションを担当し、日本において同ジャンルのDVDとしては異例の爆発的なブームをつくった。取材・文=長濱佳孝text by Yoshitaka Nagahama写真=井上治photo by Osamu Inoue ダンス義務教育化により、この春より、大きな変革期を迎えつつある日本のストリートダンス。果たしてこの先、どのような変化が想定できるのか? そして、そのために我々が意識すべきことは? それを知るべく、今回はJSDAのご厚意により、マイケル・ジャクソンやマドンナなど、名だたる世界的トップ・アーティストを日本に招聘してきた〝伝説のプロモーター〟、北谷賢司氏への特別インタビューが実現。エンタメ・ビジネスの百戦錬磨の目に映るストリートダンスの未来とは!?特別企画18

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