『SDM』 VOL.31
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―男性であること以外に、出演メンバーに関してはどのような選び方をしたのですか?今人‥例えスキルはなくとも、僕らが「レジェンド練を自分の生活の中で最優先事項にしてくれ」と頼んだら、応えてくれる。どれだけ強いダメ出しでしごいても、気持ちを折らず、練習をとことんやってくれる強い精神力を持っている。そういう人を選びました。―作品の組織づくりとして意識したことは?今人‥モチベーションです。正直に言って、この大会で優勝できても振付師として仕事が来るのは梅棒、それぞれの出演ダンサーに大きな見返りがあるわけじゃない。では、自分は何で梅棒作品に出演するのか? 「梅棒を優勝させたい」ではなく、〝自分のために優勝する〞という強いモチベーションを持ってくれと初日に全員に伝えました。そうして全員に「自分はなぜ優勝したいのか」を宣言してもらい、僕ら梅棒メンバーと同じレベルで全メンバーが優勝へのモチベーションを持つ。出演メンバー全員が心から「優勝したい!」と欲していたのは僕らだけだと断言できますね。―では練習やフリ入れもスムーズに進んだんですか?鶴野‥いや、もうそれは初日で絶望しましたよ……。ジャズの経験問わず、「男性、やる気」でメンバーを選んだせいか、とにかくスキルがない! 初日は最初のユニゾンのフリ入れだったんですけど、4エイトのフリ入れに4時間かかるんです。とにかく覚えが悪いというか、踊れない!今人‥〝安心して稽古をできる〞なんて順調な日は1日たりともなかったよね。常に不安で、毎日「寝て起きたらみんな上手くなってないかなー」って思ってました。拓矢‥もう練習日程の序盤でかなり強い危機感があって。4エイトに4時間かかるのは初日だけじゃないですからね、「どう考えてもこの計算じゃ間に合わない!」って。今人‥特に2番サビのパートを踊るメンバーは、ほとんどがダンス歴半年。スキルだけで言ったら、絶対に日本一になんてなれるメンバーじゃないんですよ。でも、そういうメンバーに任せて〝日本一の作品にふさわしい見せ場〞を作るのが振付師としての力だと思うし、彼らもそれに応えてくれたんです。鶴野‥スキルはないけど、誰よりも汗かいて練習したのも彼らでしたね。練習開始の時点で既に、自主練のせいでTシャツがビッショリ。しかも聞いてみたらTシャツは2枚目、そんな彼らだからこそ、〝日本一の作品にふさわしいパート〞を任せることが出来たんだと思います。―では優勝した今、頑張ってくれた出演メンバーたちに改めて思うことは?今人‥先ほども言いましたが、みんなそれぞれの人生のために優勝を目指していたんです。だから「優勝させてくれてありがとう。ついてきてくれてありがとう」ではなく、チームメイトとしてお互い対等な気持ちで「俺らやったな!!」という感覚に近いです。拓矢‥発表会とか公演とか、こういう大人数のダンスナンバーってよく本番の前後に振付け者と出演者で手紙を渡したりするじゃないですか?鶴野‥僕ら今回、それをする気に全くなれなかったんです。「そんなことしてる暇あったら練習しろよ!」って感じで。メンバーが男だけなので尚更そう思ったかもしれないですけど。拓矢‥でもまぁ、去年のレジェンドの時に出演メンバーが「手紙をもらったことで優勝しようという気持ちが強くなりました!」って言ってくれたことがあったので、結局本番前に各メンバーには手紙を書いて渡したんですけどね。鶴野‥でも「ありがとう」なんて一言も書いてないよね。「お前はこういうクセがあるから、本番ではここに気をつけろよ!」とか、そんな内容でしたね。―では優勝して大会が終わった後も、特にメンバーからは何も無かったんですか!?今人‥終わった後の打ち上げでは、出演メンバーから〝終わった後に慌てて書きました〞というのが丸わかりな手紙をもらいました(笑)。ただ、それで良かったんです。僕としては「本番前から一生懸命、心を込めて書きました」みたいなものはいらないんですよ。そんなことする暇あったら練習しろって思ってしまうので。だから、その〝本番終了後に慌てて書いた手紙〞というのが、本番まではパフォーマンスのことに集中していたことの証明のようで、逆にすごい嬉しかったです。―最後に、優勝作品振付師〝レジェンド〞としてのこれからの展望を聞かせて下さい!今人‥僕らと前回優勝のDAZZLEが道を切り開いていって、「ダンスで生活している」という目に見える活躍をしたい。そうやってこの大会自体の価値を高めていきたいと思っています。人に感動を与えられる作品を作れば、ダンスで生活していけるということを証明しなきゃいけない。その1つの方法として、この秋に自分たちがやりたいように空間を創出できる劇場公演に踏み出します。まずは現実的に劇場公演を定期的に行ない、ダンスで生きている、活躍しているという姿を見せる存在になります!チーム結成メンバーの母体は、日本大学芸術学部のジャズダンスサークル〝BAKUの会〟。当時1年生だった今人を中心に、同学年のメンバーで結成。J-POPやゲーム音楽等を使用し、「下手くそでも観る人を楽しませる」というコンセプトのもと、以後、Σ(シグマ)※のイベントを中心に活躍、人気を得る。2001年方向性の決定Σのイベントに初めて〝ゲスト〟として出演。「J-POPの1曲使い、笑いあり感動ありのストーリーのある作品」という現在の彼らの作風は、この時の作品から始まった。2005年コンテストへの挑戦それまでΣのイベントでのみの活動から、ストリートダンスコンテスト『TOKYO DANCE DELIGHT』に挑戦。特別賞入賞という結果を残し、多くの観客に鮮烈な印象を残す。2006年初のビッグタイトル『JAPAN DANCE DELIGHT VOL.16 FINAL』において特別賞を受賞。世界最高峰の〝ストリートダンス〟のコンテストで彼らの作風が認められるのは、偉業と言っていいだろう。2009年レジェンドへの挑戦2011年、彼らのスタイルで〝特別賞ではなく、優勝を狙える〟コンテスト『Legend Tokyo』に挑戦。震災延期によるリーダー不在という状況で審査員賞を獲得も、優勝を逃す。※関東大学学生ダンス連盟Σ。関東地方の36大学47サークル、所属人数約4500人から成るダンスを媒介とした学生団体。2011年出演メンバー全員が同じレベルで、心から優勝を誓う、そんな作品は間違いなく僕らだけだと断言できる。梅 棒History of19

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