『SDM』 VOL.31
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――今年の『Legend Tokyo』を振り返って、全体的な感想はいかがですか?長谷川‥今年は審査する側として感じたのは、「みんなすごく研究してこの大会に臨んでいる」ということでした。作品自体の質は高いし、衣装も曲もそれぞれ個性がある。しかし、ステージ上での構成の仕方や展開が似てきてしまっている印象はありました。飯塚‥僕が全ての作品を観て思ったのは、この〝レジェンド〞という大会の本質を掴み切れていないように感じました。審査員にダンサーは(ほとんど)いない、評価基準は「ダンスを知らない人がどれだけ楽しめるか」ということ。だったら、自分のダンスをただ思いっきりぶつけるだけではダメで、一般の人が持っている「ダンスってこういうものだろう」という価値観を超越する作品を提示しなければ勝てないと思いました。――優勝した梅棒作品については? 長谷川‥彼らの作品には目が離せない演出力があります。理解しやすいストーリー展開と、ステージ上で繰り広げられる構成術も上手い。とにかく見逃せないシーンの連続で審査表にメモを取る隙がないんですよ。そして何よりもこの作品は老若男女誰が見ても楽しめる、そういった面白さが際立っていました。ダンスを芸術や技術で捉える人は否定するかもしれません。ただ、彼らはいつだって一番観客を盛りあげてきたし、ダンスエンターテインメントとして最高峰であることは間違いありません。飯塚‥DAZZLEも梅棒も、ダンスシーンではいわゆる〝アウトサイダー〞。ただ、レジェンドではそうではなくて、芸術やエンターテインメントの観点からみれば、パフォーマンスとしてはむしろ正当であると思います。――どのようにすれば、DAZZLEや梅棒のように、「一般の視点で面白いもの」を考えることができるのですか? 長谷川‥有名なミュージカルでもいいし、無名のお芝居でもいい、沢山のエンターテインメント、舞台、芸術を観て、「これは面白かった。これはつまらなかった」ということを感じることが大切だと思います。そうやって世界中にあふれている数多くの作品の中で「自分のパフォーマンスはどの位置にいるんだろう」としっかり判断できるようになっていく。例えば、シルク・ドゥ・ソレイユと比べて、芸術や技術、エンターテインメントとして自分たちは圧倒的に負けている。そこで自分たちは〝ダンス〞というツールを使ってどうやってそれを越えるのか? そこをしっかりと見すえて思考することが重要だと思います。――ではもっと根本的に、なぜ「一般の人が面白いと思う作品が必要」だと考えるようになったのですか? 長谷川‥DAZZLEとしてコンテスト受賞も経て、知名度も上がった。念願だったダンスで仕事ができるようになった。そうしてダンスが上手くなって、レッスンが増えて生徒も増えて……。ダンスシーンでそういう生活をし、歳をとっていくのが僕の人生なんだろうかって考えてみたら、僕の場合は違う、と思ったんですよね。それからDAZZLEとして、アーティストとしてちゃんと世の中に作品を残したいと思うようになっていきました。そう考えた時に、ダンスの世界で同じことを繰り返していてもダメなんじゃないか、アーティストとして、ダンサーが社会的にも認められる立場になるには、より広い世界から評価を受けなければならないと思いました。だから舞台を目指して、演劇界にも足を踏み込んだし、ファッションや映像、より多くの文化の中でのダンスの価値や多様性を示すために、〝ダンスだけ〞を追求するのではなく、「パフォーマンスとしての価値」を目指すようになっていきました。指南=長谷川達也、飯塚浩一郎lecture by Tatsuya Hasegawa、Kouichiro Iizuka構成=長濱佳孝constructed by Yoshitaka Nagahama『Legend Tokyo』から考える日本のダンスシーン。最終回となる今回、長谷川達也氏が審査員として参加し、DAZZLEとしてもゲストパフォーマンスを行なった『Legend Tokyo Chapter.2』を振り返りつつ、日本のダンスシーンの問題点を斬る!最終回 28

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