『SDM』 VOL.49
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―かなり様々な活動をされていますが、メインのお仕事としてはどのような事をされているのでしょうか? クリエイティブ・ディレクターという言い方が一番正しいですね。アートディレクションだけではなく、例えばイベント全体のプログラムやコンセプトを作ったり、もちろんビジュアル制作も行なっています。 ダンス関連の仕事も、僕の兄が舞踊家なので子どもの頃から〝踊り〞が近い所にあり、16才の頃には創作舞踊の台本を書いたりしていたんですよ。―恐縮ですが、具体的に〝創作舞踊〞とはどのようなダンスなのでしょうか? いわゆる伝統的なクラシックバレエなどに対して、新しいテーマや動きを創って踊るのが創作舞踊です。 昔はコンセプトやストーリーのあるものが多かったのですが、60年代にアメリカからムーブメント(表面的な動き)を中心としたダンスが出てきて世界的な流れになってきました。さらに70年代には〝ポストモダンダンス〞の潮流になって、ダンス作品というより「ダンスとは何なのか」という、哲学的、思想的な芸術になってきてしまった。 そういう流れの中で、分かりやすくて特定の訓練を積まなくても始める事ができる〝ストリート系のダンス〞が、アート系ダンスへの反逆的カウンターとして盛りあがっていったと思うんですよ。―なるほど、近代のダンスの歴史として、非常に勉強になります! ただ、ダンスというものは、「ダンス作品を創ります」という意識ではなく、「身体を使ったクリエイション(創作)」という意識に到達しないと、新しい文化にはたどり着けないと思います。 その点で言うと、ストリート系のダンスは身体性に比重を置いているので、いろんな演出を付けていくと面白くなりやすい。今までのダンスにあった暗黙のルールは、そろそろ壊れないといけないし、その可能性を秘めていると思いますよ!暗黙のルールはそろそろ壊れないといけない。―確かに無意識のうちに「ダンスはこう創るもの」という考えはありますね。 それと、身体能力や技術の高い人が必ずしも良いダンスを創れるかどうかは別問題。自分の能力に執着してしまうと新しいことができなくなってしまうことが多いんですよ。 例えば、若い人の身体的なエネルギーでダンスを創るというやり方もよいですが、老人が動けなくなってきても踊る、そういった人間の本質的なエネルギーからは、もっと根源的な身体芸術も生まれると思います。―ダンスをアートとして観るのか、エンタメとして観るのかも大きいですよね!? エンタメとなると〝大衆性〞のある創作でないといけない。だけど創っている方は大衆性の中で仕事をしていると、気付くと〝大衆迎合〞になってしまう。「みんなに観てもらいたい、楽しんでもらいたい」という考え方だけがこの業界の大きな流れになっていくとしたら、それを超える視点も必要であると思いますよ。―では、本大会で期待するのも、どちらかというとアート的な作品でしょうか? みなさん「こうあるべき」という〝共通の認識〞からスタートしているものが多いと思うんですけど、そうじゃない部分をいかに持っているかということを一番に審査したいです。「みんなが守っている暗黙のルール」の中で物事が進行していくと、衰退していってしまいます。もっと過激に、チャレンジするもの。やはり新しいものを生み出すということは、常識を超えないといけません。―既存の常識や暗黙のルールを超えることが、新しい何かを創る時に重要なんですね! 〝創作〞とは〝事件を起こすこと〞なんです! この大会だって、ダンスシーンに〝事件〞を起こそうとしているじゃないですか? 事件を英訳すればそれが「event」なんです。だから出場者のみなさんも「自分たちは事件を起こしてやるんだ!」ってくらいの思いをもって臨んでほしいですね!〝大衆性のある創作〞と〝大衆迎合の創作〞は違う。2001年にプロデュース。TOTOにちなみ、高さ7mの〝トイレ型シアター〟を作成。北九州市長賞受賞。世界のアーティスト支援のプログラムであり、丸ビルのオープニングイベントとして2003年に開催。その後、計3回開催する。若手アーティスト、ファッションデザイナー、パフォーマーの発掘を目的としたイベントのプロデュース。アート・クリエイティブとしての視点日本を代表するアート・ディレクターとして数々のビッグプロジェクトを手がけ、「日本ダンスフォーラム」ボードメンバーとして〝身体表現としてのダンス〟にも深い見識を持つ榎本了壱氏。様々なアート・エンタメ事業におけるデザイン、ディレクション、プロデュースなどを行ない、京都造形芸術大学教授にも就任。文化人として名高い彼が語るダンス・アートとは!?日本文化デザインフォーラム 理事/副代表幹事京都造形芸術大学 客員教授 日本ダンスフォーラム ボードメンバー株式会社アタマトテ・インターナショナル 代表榎本 了壱「北九州博覧祭」TOTOパビリオン1998年に寺山修司没15年の記念イベントとして青森市で開催。企画・プロデュースを担当。(写真:荒木経惟)市街劇「人力飛行機ソロモン」青森篇「カウパレード東京 丸の内2003」Art Marunouchi 2004「東京コンペ♯1」武蔵野美術大学を卒業後、寺山修司の映画美術を担当。雑誌「ビックリハウスsuper」の編集長を経て、1986年アタマトテ・インターナショナルを主宰。2007年には、日本コンテンポラリー・ダンス界の年間賞を贈る「日本ダンスフォーラム」を発足するなど、パフォーミング・アーツにも精通。大学教授、社団法人理事を務めるなど多岐にわたるアカデミックな活動をこなす。Job FilePROFILE新たなる芸術表現を見極める現代アートのプロフェッサー!共通認識や暗黙のルールをいかに飛び越える部分を持っているか?04クリエイションとは〝事件〟を起こすこと。大衆に迎合せず共通認識からの脱却を目指せ!決する   の視点。1224

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