『SDM』 VOL.55
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―ストリートダンスに対してどんな印象をお持ちですか? 様々なダンスを観てきていますが、他のダンスと比べて、〝ストリートダンス=踊り手が楽しむもの〞というイメージがありました。ただ昨年、『Legend Tokyo』の審査員をさせて頂き、〝オーディエンスに対してのサービス精神〞が旺盛で、予想以上にエンターテインメントだったので驚きました。しかもあれだけの大人数で踊るものは、初めて観たのでシーンの変化を感じましたね。―エンタメとして確立してきているということでしょうか? 厳しい目で見ると、まだ魅せ方や表現を突き詰めているというよりも、分かり易さを意識し過ぎている箇所も見受けられました。ストーリーや表現している内容、そして魅せ方が表面的でまだまだ甘い作品が多いと感じましたね。 これは近年、日本のエンターテインメントのステージ全体に言えることでもあるのですが、そういった部分に関してはまだまだ発展の余地があるでしょう。―具体的にどういう点で〝甘い〞と感じますか? 例えば、作品の構成技術の部分で例を挙げると〝正面性〞と〝シンメトリー〞。確かに短い時間の中でアピールするとなると、みんなで正面を向いて、左右対称にしてというのが効率的な方法論なのかもしれません。しかし、そればかりだと観る側は飽きてくる。有効なセオリーではなくなります。結果として〝みんな同じ〞にみえてしまうのです。―型にはまっているということでしょうか? そうですね。衣装やストーリーは違うけど、ダンスや振付けとしてのバリエーションがあまり無いように感じることがあります。 おおまかに決まっているフォーマットに対して、既存のテクニックを組み替えて構成する―。ある意味、非常にバレエ的でトラディショナルなダンスにすら見えますね。ストリートダンスは、まだまだ進化できる!―なるほど、改めて見つめ直す点が、たくさんありそうですね。 例えばコンテンポラリー・ダンスは、そもそもは〝自由で現代的なダンス〞ですが、歴史の中で序々に構築されてきた〝コンテンポラリーと名乗るが故の決まった型〞に捉われてしまい、近年では新しい展開が少ない状況になってきています。ストリートダンスは今、芸術文化の入り口に立っているので、まさにこれからです! 既存の枠組みに囚われない〝新しいダンス〞が生まれてくることを期待しています。―発展のために求められるものはなんでしょうか? もっと批判されるべきです。ストリートダンスの世界だけでいえば、日本はトップレベルかもしれません。しかし、現在あるシーンの中ではかなり煮詰まってしまっている印象があります。新しい領域に進出して発展しようとしている今、もっと様々な分野のプロフェッショナルに評価されて、試行錯誤しながらクリエーション(創作)を磨いていかなければなりません。―厳しい評価に晒される環境が必要なのですね! 環境という意味では、評価する側も重要です。ただ〝興奮する作品〞ならオーディエンスが評価すればいいと思いますが、チープなものになってしまうでしょう。未来に向けて発展し、文化として根付くためには、そこに隠された重要な因子や可能性を見極めて、時には厳しい評価を伝えることも必要だと思います。―榎本さんからみた、良いアートとは何でしょうか? 枠組みに囚われないという話をしましたが、私はいつもアートを評価するとき、暗黙ルールや共通認識をいかに飛び越えているかをみています。「良かった」ではなく「何これ!?」って心に響くもの―。そこには表現者としての思想やアイディアがあって、それを極限まで突き詰めた結果、枠組みを越えていくのです。そんな真のアーティストと出会えたら、一緒に仕事をしたいですね!進化のためには、プロによる厳しい評価を!2001年にプロデュース。TOTOにちなみ、高さ7mの〝トイレ型シアター〟を作成。北九州市長賞を受賞。世界のアーティスト支援のプログラムであり、丸ビルのオープニングイベントとして2003年に開催。その後、計3回開催する。クリエイティブ・アーツ界、日本の巨匠からの2020年の東京オリンピック・パラリンピック・エンブレム選考委員もつとめる現代アート界の巨匠、榎本了壱氏。アート・ディレクターとして数々のビッグ・プロジェクトを手がけ、京都造形芸術大学の教授も就任、クリエイティブ・アーツとしての〝ダンス〟にも深い見識をもつ。まさに身体表現に通じる〝文化人〟である榎本氏の考える、日本のストリートダンスの未来とは!?日本文化デザインフォーラム 理事/副代表幹事京都造形芸術大学 客員教授日本ダンスフォーラム ボードメンバー 株式会社アタマトテ・インターナショナル 代表榎本 了壱「北九州博覧祭」TOTOパビリオン「カウパレード東京 丸の内2003」武蔵野美術大学を卒業後、寺山修司の映画美術を担当。雑誌「ビックリハウスsuper」の編集長を経て、1986年アタマトテ・インターナショナルを主宰。2007年には、日本コンテンポラリー・ダンス界の年間賞を贈る「日本ダンスフォーラム」を発足するなど、パフォーミング・アーツにも精通。大学教授、社団法人理事を務めるなど多岐にわたるアカデミックな活動をこなす。表現したいものを突き詰め、枠組みにハマらないアートを生み出せ!さらなる進化のためのアドバイス!若手アーティスト、ファッションデザイナー、パフォーマーの発掘を目的とし、東京・丸の内で開催されたイベントをプロデュース。Art Marunouchi 2004「東京コンペ」「東京2020」オリンピック・パラリンピックの大会エンブレム選考委員会メンバーとして、デザインのチェックなど選考に携わる。『東京2020』大会エンブレム選考委員会現代アート界のプロフェッサー!次世代の芸術の在り方を見極める、クリエイティブ・アーツとしての視点からのアドバイス!このままだとストリートダンスも煮詰まってしまう。もっと多様な評価のもと、試行錯誤していくべき!世界へ向けた〝進化〟と〝可能性〟32

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