『SDM』 VOL.63
19/60

動物たちが少女に勧めるものは……? 来場者の行動によって、目撃できる場面はそれぞれ異なる。院長室に置かれるさまざまなキーアイテム。物語の全容を知るピースが1つずつ提示されていく。1日4回の上演となるこの公演、時間帯によっては同じシーンでもまた違った印象を抱かせる。集中治療室では1人の少女が複数の患者や看護師とパフォーマンスを繰り広げる。無機質な部屋ながら巧みな空間づくりで来場者を引き込んでいた。開演を待つ来場者たち。彼らもまた〝物語の一部〟として公演に参加することになる。 従来の舞台公演の常識を覆す「来場者が会場を自由に歩きまわる」上演スタイル、〝イマーシブシアター〞。まさに〝体感〞するこのスタイルにDAZZLEならではの創意工夫が折り込まれ、唯一無二の公演がまた1つ世に放たれた。 廃病院一棟まるごとを会場とするこの公演、来場者は6つのグループに分けられ、それぞれ登場人物である看護師たちに誘導されながら、建物内の要所で繰り広げられるパフォーマンスを目撃する。決して広くはないスペースで行なわれるパフォーマンス、出演者の息を呑む音さえも聞こえる距離感は、自然とスリリングで緊張感のある雰囲気を演出していた。 そして公演の後半は真骨頂、建物内の各部屋で同時多発的にさまざまな出来事が発生、来場者は自由に歩きまわりそれらを観ることができる。つまり、1度の観劇(体験)で全てのシーンを見ることは不可能なのだ。 また、「建物内の赤い物はキーアイテムなので調べて良い」というルールも絶妙だ。登場人物を追う、キーアイテムを探し物語を解明する……など、各々の楽しみ方で来場者たちは物語に溶け込んでいく。 ダンスシーン初の上演スタイルでありながら、既に完成形かのように研ぎ澄まされたこの公演。前回公演の「物語の結末を来場者の投票によって決める」という仕掛けもさることながら、決して〝記録された映像〞では味わうことのできない、ライブなパフォーマンスに懸けるDAZZLEの思いが伝わってくる公演であった。17

元のページ  ../index.html#19

このブックを見る