『SDM』 VOL.64
30/52

取材・文=安江雄彦 text by Takepico Yasue写真=飯野高拓、角田大樹photography by Takahiro Iino、Daiki TsunodaDance Company MKMDC 第4回本公演演出振付=松尾耕振付=Dance Company MKMDC原作=坂口安吾衣装=巽徳子映像=佐藤直樹2017.01.19(金)--21(日)川崎市アートセンター・アルテリオ小劇場巨大なサンキャッチャーやLEDライトを駆使した多彩な技法で、物語の展開や人物の心情を美しく演出するテクニックが随所に見られた。スマートフォンやタブレット端末が舞台上に登場。時代性のギャップや機能的特性を活かした演出で、メッセージを婉曲的に伝えていた。文字が降ってきて、背景や演者に照射される場面。よくある映像演出とひと味違う手法で、観る者の想像力を刺激していた。――恐ろしく、そして美しく、技巧的に描かれる文学的舞台空間。 振付家集団としてさまざまな創作活動を展開するDance Company MKMDCが、4作目となるカンパニー公演作品を披露。題材となるのは、ある桜の森を舞台にした、山賊と美しく残酷な女の幻想的な怪奇文学作品だ。原作の古風な世界観に現代的要素が交ざり、昔と今、現実と非現実など、次元を複雑に行き来するような独特の手法で表現されていく――。キャストが語る台詞も、一見すると繋がりなく断片的に繰り返され、ダンスと共にストーリーが展開していった。 いたたまれないような悲しい場面を連想させる報道音声や子どもの泣き声、心電計の音などが要所要所に用いられていた本公演。家庭内暴力やネグレクト、自殺や死別など、現代が抱える社会問題を色濃く反映し、今を生きる人々に対する新たな作品の解釈を提示していた。 また、思わず息が詰まる狂気や恐怖を感じるシーンが随所にみられたが、その多くが美しく幻想的なダンスと視覚的演出で描かれているのも特徴だ。人間が本来持っていながらも目を背けている精神性を、逆説的かつ強烈に印象付けるセンスと技術はさすが――。 終盤、踊りのないシーンが続き、物語がクライマックスを迎えると、最後にアンサーダンスともいうべき壮大な群舞が情感豊かに、そして力強く披露され、観る者の心を大きく揺さぶっていた!28

元のページ  ../index.html#30

このブックを見る