ホテル一棟がまるごと舞台!? イマーシブシアター『RANDOM18』レポート!

舞台レポート
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日本では目にすることが少ない公演形式である〝イマーシブシアター〟。そんな珍しい上演スタイルを2020年より手がけているダンスパフォーマンス団体、ego:pressionによる最新イマーシブシアターが開催!

カプセルホテル一棟まるごとが会場となった公演『RANDOM18』の模様をレポートしよう!

観るではなく体験するイマーシブシアターとは?

「観客は客席に座り、演者が舞台上でパフォーマンスするのを鑑賞する」という一般的な公演の上演形式に対し、イマーシブシアターでは「観客と演者は同じ空間を共有し、観客が自由に行動しながら物語を体感する」。

その名の通り物語の世界に〝没入(immersive)〟することができる、従来の舞台公演とは一線を画する体験型エンターテインメントであり、新しいかたちの上演形式として知られている。

しかしながら、一般的な上演形式に対してその制作過程の困難さと観客キャパシティの少なさゆえ、日本で上演されるのは珍しい部類と言えるだろう。

そんな珍しいイマーシブシアターを2020年より手がけているのがego:pressionであり、4作目となる今回の公演にも注目が集まっていた。

2012年に結成。「ego=自己表現を大事にする。expression=その時に一番表現したいことを大事にする」をモットーとして活動するパフォーマンス団体。定期的に主催公演を開催し、2020年の第6回公演よりイマーシブシアター公演を開始。ダンスパフォーマンスの新しい表現に挑戦し続けている。

舞台はホテル一棟全て!完全自由回遊型のイマーシブシアター!

会場となるのは閉業したカプセルホテルの1棟すべて。来場者は地上5階建ての建物全体という、広大な空間を自由に探索しながら物語を体験していく。

会場に到着すると、受付となっているホテルのフロントで1つのカギを手渡される。このカギに付いている番号がそのままホテルのカプセル番号(と手荷物を入れるためのロッカー番号)に対応しており、来場者は開演時刻まで自分専用のカプセル内で待つことになる。

外界から遮断されたカプセル、静かに流れる幻想的な音楽が来場者を開演前から現実とは別の世界に導き始める。

ストーリー

目覚めたら数百年先のカプセルの中だった――――

来るべき地球の災厄に備え、
人類の存続のために開発されたコールドスリープの技術で眠らされていた。
ここに居るのはランダムか、それとも運命なのか。
託された未来、重すぎる責務。

「なぜ私たちだったの?」

戸惑いながらも新しい世界で生き延びることを決意する。

『RANDOM18』公式サイトより

物語の内容は人類の未曾有の危機を生き延びたメンバーがコールドスリープから目覚めた直後(2122年)の状況を描いたもの。

来場者はその100年後の時代(2222年)から当時の模様を再現したAR映像で体験している、という二重構造になっている。

会場の廃カプセルホテルの設備をそのまま利用。来場者1人1人にカプセル1室が割り当てられ、開演時刻までを過ごす。
ホテルとしての営業は終えている〝廃ホテル〟ではあるものの、会場の設備は清潔に保たれている。

開演時刻を迎えるとカプセルのカーテンを閉じるようにアナウンスされ、自らの手でカプセル内をより閉鎖空間にするように促される。

それはまさに物語の始まり、登場人物たちと共に来場者たちもコールドスリープから目覚める追体験を来場者たちにさせるものであり、カプセル内のモニターに映し出された映像がさらに来場者たちを物語の世界に引き込んでゆく。

映像が終わり、カプセルのカーテンを開けると目の前には同じようにコールドスリープから目覚めた登場人物たちが行動を開始してゆく。

登場するコールドスリープから目覚めた人物たちは全員で 18名。

コールドスリープから目覚めたのは自衛官に記者、歌手にシスター……等々、実にさまざまな職種の18名。
人類が生き延びるために最適な職種と言える医者と学者。彼らはこの状況でどのように行動していくのか……?

あらすじは無限大?完全自由な物語体験!

上演開始から終演までの時間は約100分間。その間を何を観て、誰を追い、どう過ごすかは完全に来場者の意志に委ねられ、

  • 気になった登場人物の動きを追う
  • ひと気のない所を探索しに行く
  • 物語を解明するアイテムを探す

……など、自分のしたいように物語を体験することができる

もちろん、明確な意志を持ってあちこち動き回らなければ楽しむことができない、ということはない

建物のどこかでは必ず登場人物たちがパフォーマンスを行っているので、適当にぶらぶら歩きまわるだけでも必ず何かのシーンを目撃することができる。

むしろ、重要そうなシーンに見えるものの自分1人しか目撃していない、というような貴重な経験をすることも多々あり、それこそがイマーシブシアターの醍醐味とも言えるだろう。

建物内のさまざまな場所で同時多発的に登場人物たちがパフォーマンスを行うため、〝自分1人が目撃者〟という場面も!
「誰が誰と会い、どのような行動をしたのか」を目撃することが物語の謎をひも解いていくカギとなる。

また、この公演の特筆すべき点の1つはそのシーンの多彩さだ。

カプセルホテルの施設をそのまま利用し、カプセルルームはもちろん洗面所やトイレ、フロントに大浴場、図書室やラウンジなど、施設内のあらゆる場所が物語の舞台となる。

バリエーション豊かな場所で繰り広げられるパフォーマンスは登場人物の息づかいさえリアルに感じ取れる距離で行われ、アクティングとダンスが巧みに融合した表現が物語への没入感を高めていると言えるだろう。

大浴場のシーン。複雑な高低差のある設備はパフォーマンスの構成にも活かされている。
ある重要な資料が見つかる特別な部屋、図書室。登場人物たちが何を調べ、何が見つかるのかにも注目だ。
カプセルルームのような狭い空間もパフォーマンス空間の1つ。リアルな距離感と人物の息づかいが没入感を高める。
施設内でパフォーマンスが行われない場所はない、と断言できるほどあらゆる場所でシーンが展開される。(写真は洗面所)

絡み合う思惑。物語の結末は?

目撃したさまざまな情報を整理し、頭と身体を動かしていると100分間という上演時間はあっという間に過ぎていく。

誰が誰と話し、何を調べ、何を発見し、そして目指すものとは……

施設内を自由に行動した来場者たちは自分だけが目撃したストーリーラインを紡ぎ上げ、物語は終わりを迎える。

登場人物同士の関係やそれぞれの行動、また手にした資料など、18人の登場人物が別々に行動しているため一度の観劇ですべてのシーンを理解することは不可能であり、それこそがイマーシブシアターの奥深さと言えるだろう。

登場人物たちがメモをしたり資料を調べるシーンは少なくない。もちろん、後ろからのぞき込んで内容を確かめることも可能だ。
3階のラウンジには中盤や終盤で全員が集結する。AR映像のトラブルが発生するシーンもあるが実はそのとき……?

何度でも物語を楽しむことができるこの公演ではあるが、知人を誘い、終演後に目撃したものの情報交換や予想などを語らうことも、またイマーシブシアターの楽しみ方の醍醐味の1つだ。


日本では珍しいイマーシブシアターという上演形式ではあるものの、意欲的にこの先進的なスタイルを手がけ続け、今作で4作品目のイマーシブシアター作品となるego:pression。

随所に散りばめられた世界観の作り込みや個性豊かな18名の登場人物、ノンバーバル(非言語)ゆえの表現力に物語の奥深さも加わり、ここでしか体験することのできないエンターテインメントな空間が創り出されていた。

Photographer 和知明
©random18.ep

INFORMATION

RANDOM18

日時:開催中~ 8/13(土)、8/14(日)、8/26(金)、8/27(土)月 ※各日 12:30開演・17:00開演の2回公演
※チケットは完売しました
会場:ビジネスインニューシティ(横浜市中区福富町西通り53番地)
出演:秋吉朝子 / えみ / Oi / KANAE / KANTA. / Ken(Z) / SAIKA / 新藤静香 / 待機 / たくぱん / ちりお / pirori-no / pinke / Mana / もな / 湯浅麻衣 / YOH UENO / RYOSUKE.

公式サイト
https://www.egopression.com/latestinformation

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