ブレイキンが国際スポーツ競技になる日

インタビュー
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2018年、ダンスシーンをにわかに賑わせた「ブレイキンのユースオリンピック競技正式種目化」というニュース。さまざまな憶測から賛否両論まで飛び出したこのことについて、実施の当事者である日本ダンススポーツ連盟の山田氏、B-BOYのKATSU1氏、両人をつないだ高橋氏に語ってもらった!

公益社団法人 日本ダンススポーツ連盟
ブレイクダンス部 部長

KATSU1(石川勝之)

Profile:18才の時にB-BOYのキャリアをスタートし、国内外の数々のバトルで優勝。2004年には世界最強のB-BOY CREW〝ZULU KINGS〟にアジア人初のメンバーとして加入。現在はヒップホップカルチャーの正しい理解の普及のため世界各国を股にかけ活躍し、今回のブレイキン種目化についてはJDSFブレイクダンス部長としてブレイキンの正しい競技化の在り方に尽力している。

公益社団法人 日本ダンススポーツ連盟
専務理事

山田 淳

Profile:民間企業に勤めながら選手として日本ダンススポーツ連盟に所属し、全日本ダンススポーツランキング1位に輝く。現在は現役を退き、同連盟専務理事に就任。客観的なジャッジシステムの開発を推進し、国際標準化を実現。2010年アジア大会の採点管理責任者のほか、重要な国際大会のジャッジを務める。〝競技スポーツとしてのダンス〟に広く精通し、広め続けている。

有限会社トップアッププロダクション
代表取締役

高橋 純一郎

Profile:90年代初めからイベントのプロデュースを行ない、01年4月にストリートダンス専門スタジオ「pineapple studio」をオープン。ヒップホップカルチャーに広く精通し、東海のダンスシーンにおけるキーパーソンとして活躍。近年では日本初のストリートダンスプロリーグ『DANCE LEAGUE』の監事として、その発展と普及に尽力している。

ユース五輪であれば、若者向けのダンスは外せない!?

―いろいろお聞きしたいことはあるのですが…、まずそもそもどうしてブレイキンがユース五輪の種目に採用されたのでしょうか?
山田:まず私の所属する日本ダンススポーツ連盟(以下略:JDSF)とは、スポーツとしてのダンスを全国に広めるための公益社団法人で、その上部団体である世界ダンススポーツ連盟(以下略:WDSF)は国際オリンピック委員会(以下略:IOC)に承認されたダンス関連の唯一の団体です。
そこで、もともとJDSFもWDSFもダンススポーツの種目化をIOCに働きかけていました。具体的な詳細はわかりませんが、そういった動きの中でユース五輪であれば若者向けのダンスは外せないとIOCが判断し、若者向けのダンス=ブレイクダンス、となったのだと考えています。
―では、ブレイキンの種目化に関してJDSFさんはどのような活動をされているのでしょうか?
山田:もともとJDSFの中にさまざまなダンスジャンルを扱う「ニュージェネレーションダンス本部」という部署があり、その中に新たに「ブレイクダンス部」を創設し、その部長としてKATSU1さんに就任していただきました。
「いかにユース五輪を成功させるか」ということを目的に、ルールの提言やアンチドーピングの講習会などを行なっています。

ユースオリンピックとは?
14歳から18歳まで(ユース世代)を対象としたオリンピック。通常のオリンピック同様に夏季大会と冬季大会があり、4年ごとに開催。夏季大会は2010年、冬季大会は2012年より開催され、意外にその歴史は新しい。2018年ブエノスアイレスにて開催された夏季大会にてブレイキンの正式種目化が決定し、開催された。

若くてエネルギーがあり、世界に通じて、国内の人望もある人

―KATSU1さんがこの立場になられた経緯はどのような流れがあったのでしょうか?
高橋:もともと『Legend Tokyo Chapter.4』の時に山田さんが審査員として参加されて、その時のつながりで今回の「ブレイキンの種目化」について、レジェンド事務局の方に山田さんから相談があって……。
ただ、レジェンド事務局もストリートダンスだけどどちらかと言うと舞台・エンタメよりでブレイキンのシーンに親しいわけではない、そこでヒップホップカルチャーに精通していて中立的な人間、ということでレジェンド事務局から山田さんに私を紹介されたんです。
―じゃあ高橋さんが中心となって動く……ということにはならなかったのですか?
高橋:やはりこれから新しいことを始めるということで、若くてエネルギーがある人じゃないといけない。
そしてオリンピックですので、活動が世界に通じていること、国内でも人望がある人……、それとシーンの礎を築いてきた諸先輩方をリスペクトしながら、自分が矢面に立って行動できる人。
そういったエネルギーと精神性を持っている人となるとKATSU1君が適任だと考えたんです。
山田:もちろん、高橋さんからの助言だけではなく、色んな方に相談した結果、KATSU1さんの名前が圧倒的に多かったんですよ。WDSFからも提言されたぐらいですからね!

ヒップホップカルチャーのことをちゃんと伝えないと!

―では、KATSU1さんはJDSFさんから打診があった時、どのような印象でした?
KATSU1:最初にJDSFさんからメールが来た時は「ヒップホップカルチャーのことをちゃんと伝えないといけないな!」って思っていました。
でも、ミーティングを重ねていく中で僕たちがヒップホップカルチャーのことをすごく大事にしていることを理解してくれて、大事にしながら一緒にやっていこうという感じが分かったんです。最初は「スポーツになるからそれはダメ」ってバッサリ言われるかもしれないと思ったので。
―確かに、種目化のニュースが流れた時も、色んな意見がシーンの中で噴出していましたね。
KATSU1:種目化に関して賛否両論が起こるのもすごく分かるんですよ。僕たちのシーンの人間はカルチャーを大事に、願いを込めながらシーンを大きくしていったのに、あるとき全然違う世界の人たちが大きな力でそれを横からかすめ取っていって広めてしまうことに強い拒否感があるので。
ただ、僕たちの大切なものを分かってもらうためには、一緒にやっていかないといけないという想いもあるし、じゃあ「JDSFさん抜きでやろうぜ」ってなった時にこういう団体は僕らにはない、じゃあ今からB-BOY協会を立ち上げて、システムや人選を決めて……なんてできるハズがないと思ったんです。

日本ダンススポーツ連盟(JDSF)とは?
スポーツとしてのダンスを全国に広めるための非営利組織(公益社団法人)。47都道府県すべてに支部を持ち、全体の会員数としては4万人を誇る。日本オリンピック委員会に加盟する唯一のダンス組織。当初は〝社交ダンス〟を発展・スポーツ化したものを「ダンススポーツ」と呼称してきたが、最近ではジャンルを問わず競技スポーツ化するダンスを広く含む。

ヒップホップとオリンピックの意外な共通点?

―ストリートのシーンで組織や協会を立ち上げるのはなかなか難しそうですよね……。
山田:私たちも経験しましたが、全国規模のこういった組織を作るのは本当に難しいですよ。自分が儲かるように働きかけたりとか、「俺が中心に」、「俺を抜かして何やってるんだ」って言い出す人が必ずいますからね。
ですから、ある意味今回の種目化に関してこうやってB-BOYの方々に集まっていただいたのは、1つのいいきっかけになれると思いますよ。
KATSU1:そうですね! 僕も個人的にスポーツ界にこういう形で入るのも勉強になるし、B-BOYシーンに対して「ちょっと勉強してきますね」という感覚もあるんです。
―例えばどういったところが勉強になりました?
KATSU1:今までは「選手が金メダルを獲る」という考えだったんですけど、「裏の人たちも一緒に戦って、組織でやっていかないと勝てない」ということが分かりました。
一方でメダルのために国ぐるみでドーピング違反とか賄賂の可能性も否定できないとか、そういう話を聞いた時はビックリしましたね。オリンピックって結構クリーンなイメージがあったので。ある意味、「オリンピックにひと言申したい!」という感じですよ!
山田:人間のやることなので、ギリギリの戦いに中ではそういったこともあり得ますが、一方でやはりスポーツなので、「礼に始まり礼に終わる」という文化もちゃんとあるんですよ!
それに、私もKATSU1さんからブレイキンの歴史を勉強しましたが、「暴力で荒んでいるエネルギーを健全に発散する」という点がオリンピックと親和性があるんです。オリンピックは元々戦争をスポーツに置き換えて競い合うという起源説がありますからね!

スポーツの1つとして存在しても。

―言われてみれば、以外な共通点がありますね!
KATSU1:そうはいっても、「ブレイキンがオリンピックの種目になる」って聞いて、最初は「ブレイキンはスポーツじゃない!」って気持ちもありました。
でも、僕たちB-BOYが何を一番大切にしているのかっていう部分さえ崩れなければ、スポーツになっても……というか、スポーツの1つとして存在してもいいのかなと今は思っています。
―KATSU1さんご自身も柔軟な考え方をされているんですね。
KATSU1:そもそも本当にリアルなカルチャーからすると、今開催されているバトルイベントだって、「エントリー料を払って用意された会場で踊ってジャッジが判断する」という点で、既にスポーツとしての側面があるんですよ。
それが〝オリンピック〟って名前がデカイからこれだけ反応が大きいのかなって。
高橋:確かにオリンピックという大きい枠組みの中に、僕らの文化をちゃんと持っていけるのか不安視している方も多いと思います。
だからこそ、少しでも今までのカルチャーが反映されるような体制をJDSFさんとKATSU1君をはじめとするB-BOYで創っていって欲しい。外から批難するのではなく、、自ら飛び込んで動いているKATSU1君はすばらしいですよ!
―いろんな不安や意見の中で、自分で動いて良くしていこうというのはすばらしいと思います!
KATSU1:ある意味、みんなが不安に思っているようなことを取り除くために自分はいるのかなと思っています。1つ間違えたら全然違う方向にいってしまう可能性もあるし、新しく物事が動く時に賛否両論あるのは当たり前なので、これをいいチャンスと捉えてシーンにまた貢献していきたいですね!

ダンサーは誰が関わっている?
2018年5月にJSDFが行なった記者発表によると、ブレイキン種目化に関してJSDF内にブレイクダンス部を発足させ、KATSU1(部長)、NARUMI・NORI(副部長)、NONman(法政委員長)、Kaku(ジュニア委員長)、wingzero(広報副委員長)、Kazuhiro(審判委員)、WATA(学校教育委員長)、TAISUKE・ISSEI(アンバサダー)、CHOPPA→(ジュニア委員)といったそうそうたるB-BOY、B-GIRLが関わり、ルール化や最終予選の成功に尽力している。

日本が率先して提案したルール作り!

―先ほど、「ルールを提案している」とのことでしが、ルール決めは日本が行なっているのですか?
山田:簡単に言えば「日本が真っ先に手を挙げて提案した」という感じですね。そもそもブレイキンに関して、すでに日本には金メダル候補がいるわけですよ。それが不完全なルールでジャッジが政治的に影響されたり、ルールそのものが日本選手に不利に作られてしまった、その結果メダルがとれなくなってしまった……。
そういうことは絶対にあってはならないんです。だから日本がまず、「ちゃんとやっていこう」ということを示すためにも、率先してルールのたたき台を提出したわけです。他の国からルール提案はされていないですね。
―「日本が提案したルール案が採用されるかどうか」という段階なのですね?
山田:はい、ですが簡単にはいかない状況ですね。先日もスカイプでの会議がありましたが、なかなか理解されるのは難しいです。※ストームはどういう立ち位置なのかな? WDSFの中では彼が中心になっている感じはありますが……。
KATSU1:WDSFの方にも何人かB-BOYはいますが、中心的に発言しているのはストームですね。

※B-BOYシーンにおいて現在の基礎的な動きとされるフットワークや様々なパワームーブを創りあげた伝説級のB-BOY。

本当に白黒ハッキリさせるなら、1つの方法としてあっていい。

―日本が提案したルール案はどのように考えられたのですか?
山田:スポーツである以上、「ジャッジが変わったら結果も変わった」なんてことはあってはいけない、客観的な基準が必要です。
文化という面とスポーツという面、両方を大切にしながらB-BOYのみなさんと検討していきました。
KATSU1:実際にはブレイキンの持っている要素、アクロバティックな要素や完成度……そういうものを基に、それを数値化していく感じですね。
もともと※O.U.R.Systemという、B-BOYシーンで唯一ポイント制になっているジャッジシステムがあるんですけど、僕らが考えたシステムも8割ぐらいそれと同じような感じになったんです。
山田:ただ、ストームがどちらかというとO.U.R.Systemはダメなんだというスタンスなんですよね。
―今までなかった新しいルールを作るというのは、一筋縄ではいかないものですね……。
KATSU1:それは今回一番苦労したところで、本当にたくさんの人の意見を聞きに行きました。
僕も現役のB-BOYですけど、同じ動きでも人によって感覚が違ったりするんですよ。そもそも僕自身、技に対して難易度を付けるということがものすごく違和感がありました。
でも、本当に白黒はっきりつけるなら、1つの方法としてはあってもいいのかなと……そこのバランスをとるのがものすごく大変でしたね。

※カナダのB-BOY、Dyzeeによって考案されたジャッジシステム。ファンデーション、オリジナリティ、ダイナミック、正確性、戦略、といった5つのポイントをそれぞれ別のジャッジが採点する。韓国のバトルイベント『R16』で採用されている。

「本当のブレイキンじゃない」と思う人もいるでしょう。

―確かに技の難易度は個人間で感覚の違いがありそうですね。
山田:こういうのは専門家になればなるほどダメなんです。フィギュアスケートも同じで、「回転ジャンプが高得点なのは本当のフィギュアじゃない、スケートの本質を失っている」という専門家もいます。
だけど、「じゃあ他にいい方法はあるんですか?」という状況の中で成立している。だから我々が創る新たなルールに関しても、「それは本当のブレイキンじゃない」と思われる人は必ず出てくると覚悟しています。
―では最後に、ユース五輪のブレイキン種目に向けて、今後の意気込みをお願いします!
高橋:現在、僕は中から何かを動かす立場ではありませんが、 地方でコツコツがんばっている子供が夢を見れるような環境になって欲しい。
そしてこのヒップホップカルチャーが社会に認められて、深く理解、浸透していって欲しいです!
KATSU1:まずは最終予選を開催国として絶対に成功させないといけない、そして日本から金メダリストを出したいですね。
それと同時にこのカルチャーのことも平行して伝えていって、夢のある現場を創っていきたいと思っています!
山田:ダンスをがんばっている子供が〝日本を代表する五輪選手〟になるので、周りの目も変わってくると思いますよ。
現実的な話、メダルを獲ってくるのとこないのでは大きく違うので、ぜひ選手にはメダルを獲っていただき、それがまた次の世代の子供たちの夢になればいいなと思います!

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