国内外で数々の輝かしい評価を受けている、日本の誇る唯一無二のダンスカンパニー「DAZZLE(ダズル)」。つねに舞台表現を追求し続けてきた彼らが2021年に臨むのは、〝上演期間約1年間の常設イマーシブシアター公演〟。この国内では前代未聞となる公演をレポートしよう!
〝鑑賞〟ではなく〝体験〟、イマーシブシアターとは?
「観客が客席に座り、舞台上のパフォーマンスを鑑賞する」という一般的な公演形式の常識を覆す「来場者が演者と同じ空間を自由に歩きまわり、物語を体感する」という上演形式〝イマーシブシアター〟。
その名の通り物語の世界に〝没入(immersive)〟するこの上演形式。DAZZLEは2017年に初めて採用してみせ、以後、単独公演やコラボ公演など、幾度もこの形式による公演を手がけおり、今や国内におけるイマーシブシアターの第一人者として活躍していると言っても過言ではない。
この〝期間約1年間の常設劇場での上演〟という途方もないスケールの公演も、そんな彼らだからこそ実現することができたと言えるだろう。
1996年結成、「すべてのカテゴリーに属し、属さない眩さ」をスローガンに掲げ、独創性に富んだ作品を生み出し続けるダンスカンパニー。ストリートダンスとコンテポラリーダンスを融合した世界で唯一のスタイルを追求し、映画・コミック・ゲームなどの日本文化の要素を取り込んだ作品を数多く創作。2011年には大人数振付作品コンテスト「Legend Tokyo」の初代王者に輝き、以後海外の名だたる演劇祭に招聘されるほか、国内でも人間国宝・坂東玉三郎とのコラボ公演や東京ワンピースタワーの公演を手がけるなど、多彩な活躍を見せている。
妖しげな秘密クラブに独自の紙幣、自らが登場人物となる世界!
この『Venus of TOKYO』の会場となるのは、お台場ヴィーナスフォートの一角。首都圏でも名だたるショッピングモールとして知られる場所を会場としながら、さらにこの公演のためだけに作られた会場という事実が、いやが上にも来場者の期待を高めさせる。
会場に一歩足を踏み入れると、すでにそこは物語の世界。特別に招待された者しか立ち入ることができない、秘密クラブ〝VOID〟であり、建物の内装や調度品、通路を妖しく照らす照明がVIPが集まる薄暗くも高級な隠れ家といった雰囲気を演出する。
ストーリー
東京の奥深く、美を求める者たちが蠢く秘密クラブ「VOID」。
特別に招待された者しか、立ち入ることは出来ず、
浮き世を生きる人間のほとんどが存在すら知ることなく人生を終える魅惑の空間。
アーティストが感性を競い合い、富豪たちが欲望を剥き出しに買い漁る。連日行われるパーティに渦巻く熱狂からは、毎夜新しい芸術が生み出されていた。
真実と虚構の混沌。 ある時、加速する日々の絶頂を予感させる知らせが届く。「ヴィーナスの腕が出品されるらしい」
ミロのヴィーナス像が失っていた左腕。
その手には黄金の林檎が握られていたという伝説がある。全ての源と言われる黄金の林檎。
『Venus of TOKYO』公式サイトより
様々な思惑が交錯する中、オークションが始まる。
さらに足を進めると、来場者は係員から手渡された案内書によりランダムに5つの少人数グループに分けられ、メインのオークション会場では中央の長机を囲むように配置された、指定のテーブルで開演までの時間を待つことになる。
開演までの時間はイマーシブシアターであるこの公演ならではのルールや注意事項が簡潔にアナウンスされ、緊張感とともに未知なる体験への予感が期待を膨らませてくれる。
また、1度の来場につき1枚、来場者に渡されるこの物語独自の10,000VOID紙幣の仕掛けが秀逸だ。この紙幣は
・開演までの時間であれば会場内のBARカウンターでドリンクと引き換えができる
・上演中のオークションのシーンで(この紙幣を使って)出品物を実際に競り落とせる
というもの。
ただし、オークションの出品物の値段設定は10,000VOIDを高く上回るため、1度の観劇では競りに参加することはできない(所持金VOID以上の額で競りに参加する虚偽の参加は固く禁じられている)。
何度も公演を体験しに行くことはもちろん、(後半の自由行動パートで)とあるキャストが手渡してくれたり、またある場所に落ちているのを拾って手に入れる……という仕掛けもあり、〝物語に参加する楽しみ〟を強烈にかき立ててくれる。
※ちなみにBARカウンターで引き換えれるドリンクは○○味。
指定されたドレスコード、徹底した物語の世界作り。
開演のベルが鳴ると繰り広げられるのは、コンテンポラリーとストリートダンスを融合したかのような唯一無二のダンススタイルによるパフォーマンス。緊迫感と不安をかき立てるようなサスペンス調の楽曲とマッチしたパフォーマンスは美しくも危うい雰囲気を纏っている。
また、パフォーマンスと同時に会場全体を見渡すと気付かされるのが、演者や会場スタッフはもちろん、会場内にいる者はみな黒か白の衣裳をしていることだ。ここでこの公演のルールの1つ、「来場者はドレスコードとして黒い服装をしてくること」の意味が繋がってくる。
来場者自らも公演の登場人物として参加することになるこの公演では、その世界観を崩さない服装が要求されるのだ。中には、まさにオークションに参加する本物のVIPのような服装の来場者の姿もあり、この公演の楽しみ方の懐の深さに気付かされる。
そしてオークション会場でのパフォーマンスが一段落つくと、来場者はスタッフに誘われグループごとに施設内の別々の場所へ案内される。
そこでは公演の主要キャストである贋作家、医者、鑑定士、盗賊、写真家……など、それぞれの思惑が開示され、まさに目の前でパフォーマンスが繰り広げられていく。
物語を表現するアクティングを交えながらさまざまな小道具を駆使し、決して広くないスペースで来場者の目の前のダンスパフォーマンスをクオリティを高く保つことができているのは、DAZZLEの歴年の舞台表現の賜物と言っていいだろう。
イマーシブシアターの真骨頂、自由探索!
公演の後半は、会場スタッフが各シーンに誘導してくれた前半から一変し、来場者は会場内のどこに行ってもよい〝自由探索〟とも言える時間。
施設内の各部屋では同時多発的に様々な出来事が発生し、来場者は自らが気になる主要人物を追いかける、気になる部屋を探索し物語りの謎を解くヒントを見つけに行くなど、各部屋を自由に探索しながらそれぞれの行動やパフォーマンスを目撃して自分だけの物語を紡いでいく。
裏でつながっていた者、ある人物からある人物への手紙、謎の〇〇な部屋……などなど、登場人物同士の相関やそれぞれの思惑、物語に隠された謎など、一度の観劇ですべてのシーンを見て理解することは不可能であり、またそこがイマーシブシアターの奥深さと言えるだろう。
自由探索の時間が終わると来場者は再びメインのオークション会場に集められ、最後のシーンとパフォーマンスが展開される。その物語の結末もマルチエンディングであり、複数の結末が用意されているとのことで、まさに何度でも楽しめる内容となっていた。
日本ではまだ広く浸透していない〝イマーシブシアター〟という形式を早くから取り入れたDAZZLE。
イマーシブシアター未経験者のためのルール説明やアナウンス、スタッフによるアテンドといった懐の広さ。
そしてプレミアムチケット購入者のみが体験できるシーンや渡されるアイテム、複数回体験者が参加できる演出といった懐の深さも加わり、まさにDAZZLEしか創りあげることのできない最高級の体験空間がそこにあったと言えるだろう。
INFORMATION
Venus of TOKYO
日時:開催中~2022年3月末予定
会場:お台場ヴィーナスフォート2F「Venus of TOKYO」(東京都江東区青海1丁目3−15)
2021年7月12日よりオンライン公演がスタート! 会場内にいる演者の行動をオンラインの投票によって決めていき、作品の展開にも影響を与えながら物語は様々な結末に。リアルとオンラインが同時に行なわれる、前代未聞の二重構成イマーシブシアターとなっている。
コメント